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超小型視程計(MiniBSV)の導入活用事例 – 岡山理科大学


 視程計で測定している「視程」。
 あまり聞き馴染みのない言葉ですが、一般的な表現だと「見通し」や「視界」と呼んだ方がなにを意味しているのか分かりやすいかもしれません。
 霧が立ち込めてきたり、吹雪などで前が見えづらい状態を「視界不良」や「視程障害」、「ホワイトアウト」と呼んだりしますが、視程計はまさにそのような「視界不良」という状態を、どれぐらい先の距離までしか見えない状況なのかを具体的な数値として計測する測定機になります。

では、なぜ視程を測る必要があるのでしょうか。
今回は、実際に視程計を活用して視程を測定している岡山理科大学の大橋唯太先生にお話をお伺いし、視程を測定する必要性やそのメリットについてご解説頂きました。

大橋唯太先生 プロフィール用写真大橋 唯太先生について

 京都大学大学院で2002年に理学博士号を取得。研究職を経て、2004年に岡山理科大学に気象学の専門家として着任する。現在は岡山理科大学生物地球学部に所属。

研究分野は、局地気象学・生気象学・都市気候学・農業気象学・大気環境学など、地域の気象学・気候学を専門に研究。人の暮らしとの関わりを重視した研究で、数値シミュレーションと野外観測の両面からアプローチしている。

-そもそもの質問になりますが、視程の悪化にはどのような悪影響があるのでしょうか?

 大分県の別府湾周辺では、100m先も視認できないほどの濃霧が度々発生し、東九州自動車道(湯布院~速見間)では視界不良による通行止めや速度規制が発生するなど、地域住民の生活に影響を及ぼしています。通行止めの時間は年間で350時間以上に上り、全国でワースト1位になります。大分県が2020年に実施した試算では、濃霧による通行止めの経済損失は年間1.8億円(10年平均)にもなります。

 このように、視程悪化は人々の生活へ大きな悪影響を与えることがあります。視程の予測が出来れば、ドライバーの運転に影響を及ぼすほど視程が悪化する前に速度規制や通行止めの判断が可能となるため、高速道路上の安全に寄与できるものと考えています。

-年間1.8億円の経済損失は大きな影響ですね。
視程の予測が出来れば高速道路の安全に寄与できるそうですが、どのように視程の変化を予測しているのでしょうか?

 まず、霧の発生には地形が大きく影響することが知られて います。別府湾付近では、太平洋側から吹き込んでくる温かく湿った空気が山を滑昇することで霧が発生します。このようなメカニズムで発生する霧を滑昇霧と言います。この滑昇霧の発生は気温や湿度などの情報から予測が出来ると考えています。

 大橋研究室では、機械学習による予測モデルの開発に力を入れており、気温や湿度などの情報に加え、滑昇霧による視程変化のデータを取得し機械学習させることで、霧による視程の変化を予測することを最終目標としています。

-機械学習によって視程の変化を予測することが目標とのことですが、ではなぜ視程計という観測機器を導入したのでしょうか?

 機械学習を行うため出来るだけ多くのデータが必要になりますが、十分な量の視程距離のデータを提供している機関がなく、外部から取得することが困難でした。そのため、データが無いのであれば自分たちで視程計を設置して計測し、データを取得してしまおうとなり、視程計を導入することになりました。

 視程計導入にあたり、価格や製品の大きさについて気にして探しました。アイ・アール・システム社の超小型視程計は他社製品と比べると圧倒的に小型軽量で、設置が容易しやすそうで安価であったため、他社製品との比較検討にほとんど時間はかかりませんでした。 また、視程計を使用するのに必要な電源やデータロガーも専用のものを一括で提供してもらうことができ、非常にスムーズに計測を開始することが出来ました。

-お役に立てたようでなによりです。導入された視程計はどのように設置、運用されたのでしょうか?

 別府市内の山間部に、電源などを含む視程計一式を鉄柱に固定する形で設置しました。可視カメラも設置することで、視程計のデータと映像を比較出来るようにしました。設置した場所は完全に無電源地帯でしたので、昼間はソーラーパネルで発電、夜間は蓄電池から供給され、長期間に渡り計測が出来るシステムを構築していただきました。計測した視程などのデータはデータロガーに保存し、観測期間終了後 にまとめて取り出しました。観測期間は同年中の6月下旬から11月上旬の約4カ月に渡りましたが、その間トラブルも無く、無事に視程距離のデータを取得することに成功しました。梅雨など悪天候の時期でも問題無く動作していました。

MiniBSV導入活用事例 岡山理科大学 設置の様子1MiniBSV導入活用事例 岡山理科大学 設置の様子2

上図:設置の様子

視程距離の計測に使用したもの

指定距離の計測に使用したもの システム構成図

  • 超小型視程計MiniBSV(アイ・アール・システム社製)
  • データロガーFT JR(M.C.S社製)
  • ソーラーパネル、シール鉛蓄電池(M.C.S社製)
  • ロガー/電池収納用防水ケース(M.C.S社製)   など

-無電源地帯で約4カ月も欠測なく連続観測が実施できたのですね。
今回別府市内の山間部で霧を測定したことによって、どのような効果や成果が得られたのでしょうか?

 現在、取得したデータの整理を行っているところです。来年度にかけて機械学習による、滑昇霧に伴う視程悪化の予測を行っていく予定です。

-今後どのような発展・研究を予定していますでしょうか?

 県立広島大学の米村先生と共同研究を行っていますが、県立広島大学の庄原キャンパス付近では放射霧が見られます。放射霧は盆地で発生することが多い霧で、盆地に溜まった湿った空気が気温の低下で露点に達することで発生します。別府で使用したものと同様の機器を庄原キャンパスに設置し、放射霧の視程予測も行いたいと思っています。また、霧だけではなく雪や黄砂による視程悪化も発生する地域なので、これらの判別や予測も機械学習で行う予定です。

MiniBSV導入活用事例 岡山理科大学 研究室メンバー

上図:岡山理科大学大橋研究室、県立広島大学米村研究室のメンバー

MiniBSV導入活用事例 岡山理科大学 設置の様子3

上図:設置の様子

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